Track 1
古くから多くの人に読まれ、愛され続けてきた万葉集、君は知っている?覚えてない?おかしいなぁ~授業でやったはずなのに、もう忘れたの?でも、大丈夫だよ。これから始まる物語は、万葉集の和歌をもとに、現代風にアレンジした恋物語。ちゃんと君にも分かるように、僕が責任を持って、きちんと教えてあげる。僕の声を聞いて、君だけに囁こう。 Track02
「こんにちは。君一人?あは~そんなに警戒しないでよ。あまりに綺麗な子がいたから、思わず声をかけちゃった。うちの生徒だよね?何回か講義で見かけたことがある。こんな所で女の子が一人で佇んでいると誰かに無理やり連れて行かれちゃうよ。ほ~ら~こうやって…フフうそうそ~そんな目で睨まないでよ。抱きしめるフリをしただけなのに。君に嫌われたら、僕、悲しいな~」
「ところで、さっきからずっと壁にかかってる書を見つめてるけど…そんなに気になる?大きいよね~たしか縦横2メートル以上あるとか。フフ、口開いてるよ~え?とても綺麗な文字だから、つい見とれていたって?うれしいな~実は僕が今回のサークル展示に合わせて書いたんだ。その顔は信じられないって顔?心外だなぁ~この字、なんて読むか知ってる?億千万の「万」に時代の「代」と書いて、「よろずよ」と読むんだよ。意味は…え、ええと…なんだっけな?意味が分からないとますます怪しいって?度忘れしちゃっただけだよ!所詮お遊びで書いたものだし。」
「ねぇ、僕、君のこと気に入っちゃった。だって、見てると表情がクルクル変わって、とっても可愛い。よかったら、この後どこかに行かない?二人きりでゆっくり…いやなら別に断ってもいいけど…ただ、君のことをもっと知りたいな~なんて。」
女の子を口説くなんて簡単なこと。やさしく近づいてそっと耳元で囁けばいいだけ。でも、彼女は違った。初めて講義で会った時から、ずっと気になっていた。でも、今まで声をかけられなかった。周りの女の子とは違う独特な雰囲気に…僕は、ずっと前から惹かれていたのか
~yusa~
1
もしれない。
「これから行くところがあるって?仕方ないね~じゃあ、また誘うよ。」 『吾妹子が笑まひ眉引き面影にかかりてもとな思ほゆるかも』
彼女の笑顔、笑うと少しあがる眉。その笑顔が僕の心から消えない。ねぇ、もっと僕にいろいろの顔を見せてほしい。もっと君のことを知りたい。こんな風に思うなんて…… Track 3
「あは~この間のぼーっとしてた子!へぇ~今日は一段とかわいいね。髪形変えた?今日着てる服もとっても似合ってる。この間とはまたイメージが違って、ドキドキしちゃうな。そうだ、いま友達と話していたんだけど…これから皆でちょっと早い忘年会をするんだ。よかったら、君も来ない?ん?これから調べ物があるから行けない?そっかぁ~なら、仕方ないね~じゃあ、今度は二人きりで、ゆっくり飲みに行こう~約束…ね?あっ、友達が来た。」 「彼女を誘ってみたんだけど、駄目だってさ。可愛い子は忙しいんだよ。ほら、早く行かないと~コムシ(?)、もう行こう~」
少し離れたところにいる友達に声をかけると、輪の中の数人が寄ってきた。「だ~から、無理に誘っても仕方ないだろう。忙しいって、僕が聞いたんだから、間違いない。」
僕がそう言うと、友達の一人が彼女の肩を掴んで耳元でなにかを言おうとしているのが目に入った。
「おい、その手離せよ!彼女に触るな!いくら友達のお前でも、彼女になれなれしくするのは許せない。彼女に触れていいのは、僕だけだ。フン~面倒くさい~僕今日行かないから、お前たちだけで勝手に行けば。じゃあね~」
「ははは~ねぇ、見た?さっきの奴の顔。うん?友達にそんなこと言って平気なのかって?大丈夫大丈夫~皆、また僕の気まぐれがでたと思ってるだけだよ。それよりも…さっきあいつに掴まれた肩、痛くない?ごめん。もう少し早く助ければよかった。守れなくてごめん…」 心配になって顔を覗き込むと、彼女はいつもの笑顔で平気だと答えた。
~yusa~
2
『足柄の和乎可鶏山の殻の木の我を誘さねも門さかずとも』
もっと君に話しかけてほしい。笑ってほしい。少しぐらい僕がつれない態度を取ったとしても…君への思いは単なる遊び?それとも…僕は、僕自身がよくわからない。 Track04
「寒いなぁ~今宵冷えるだろうなぁ~それにしても、暇だ。図書館で万葉集の資料でも探すか。」僕は遊びに行くまでの時間を潰すために、校内をふらふらとしていた。 「図書館来るのは久しぶりだなぁ~あれ?あの横顔は…」
「姫、お迎えにあがりました。って、冗談だよ。いつも講義が終わると、すぐどっかに行っちゃうと思ったら、ここにいたんだね。あっ、ごめん~読書の邪魔しちゃった?少し隣に座っていい?大丈夫、静かにしているから。」
「ん?僕?時間潰しに来たんだよ。じゃなきゃ、僕がこんなとこに来るわけないじゃん。外寒くて、避難ついでに~それに、遊びにいく約束もあるし。本を読んでる君の姿が見えたから、思わず声かけちゃった。夢中で読書してる姿、綺麗だなぁって。嘘じゃないよ。君の横顔、とっても綺麗!」
「窓際のこの席いいねぇ~外の景色がよく見える。あ~何だか眠くなってきた。ん?寝てでもいいよって?じゃあ、すこしだけ。ねぇ、手、握ってでもいい?片手があれば、本読めるでしょ?フフ~君の手、暖かい。緊張してるの?でも大丈夫~何もしないから。おやすみ~」 外はまだ北風が吹いている。でも、手から伝わる彼女の体温は心地よかった。 『吾妹子に恋ひてすべなみ夢見むとわれは思へど寝ねらえなくに』
僕は彼女に恋いをしてしまった。夢の中でいいから、彼女に会いたい。でも、彼女を思うと眠れない。
僕が眠りから覚めても、彼女は変わらず隣で読書をしていた。手はずっと握ったまま…
~yusa~
3
Track 5
「はあ~また図書館にいる!」
こうやって彼女を図書館で見つけていろいろな話をする。それが僕の日課となりつつある。でも、それもあと少し…校内では卒業制作の追い込みをしている人を見かける。
「今日はお願いがあるんだけど…大丈夫、変なことじゃないから。ね?お~ね~が~い。えへ?いいの?ありがとう~僕が手取り足取り教えてあげるから、資料集め手伝ってほしい。あれ?なにも言ってくれないの?そんな顔で見つめないでよ~そんな顔しても可愛いって思うだけだよ。」
「実は僕、書道教室の先生のアルバイトしてるんだ。意外でしょ?ほぼ毎日授業があるから、学校の勉強をする暇はない。遊びにも深夜しか行かないし。単位を取るために、いままで必死で頑張ってきたけど、最後の課題の資料がどうしても見つからないんだ。君なら、図書館詳しいでしょう?だから、ねぇ~お願い~一応自分で集めた資料だけノートに書き出して見たんだけど…どうかな?」
「ん?字が綺麗だって?それしか取柄ないからさ。僕の家ね、父親が書道の先生なんだ。だから小さい頃から厳しくしつけられてきた。特に、字は人の心を映す鏡だって言われてきたから。って、こんな話、聞いてもつまらないだろ?こんなことを手伝わせてごめんね。ありがとう。ねぇ、手伝ってくれたご褒美はなにがいい?」 『いで如何にここだはなはだ利心の失せなむまでに思ふ恋ゆゑ』
彼女のことを考えすぎて、自分が分からなくなる。僕の気持ちはいつ君に届くのだろうか。 君にだけは僕の素直な気持ちを話せる。ほかの誰にも言えないことも…友達以上の気持ちが積っていく。卒業式なんか来なければいいのに。まだ君に話せていないことがたくさんある。
~yusa~
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